「きゃっ!」
ウィンは前のめりに倒れた。
ベチャッ
鈍い音が耳に入った。
穴に転落したようだが、底は粘度のように軟らかく、身体に痛みはなかった。
「ううっ・・・」
ウィンは身体を起こそうとした。
しかし、なぜか身体が重く、身体が地面から離れなかった。
目を開けると、紫色のねばねばとした粘液が手に纏わりついているのが見えた。
「うっ・・・、いやっ・・・」
ドロリとした粘液は引き剥がそうとしても離れないほど、粘り気があった。
腕どころか、脚、そして胴体もほぼ動かなかった。
服や肌に粘着ゲルがまとわりついていたのだ。
「うっ、なにこれっ・・・」
ウィンは身体を捩るが、粘着性のゲルが身体に纏わりつくだけだった。
「ああっ・・・いやっ・・・」
身動きが取れなくなり、穴の底にへばりついたままになったウィン。
「ううっ・・・暗い・・・怖いよ・・・」
落とし穴の底は薄暗く、上から入ってくる光は少ない。
ウィンは辺りを見回すと、白い骨のようなものが見つかった。
よく見てみると、獣の頭蓋骨のようだ。
穴の底に落ちて、出られない間に命を落としてしまったようだ。
「わたしも、こうなちゃうのかな・・・」
「そんなっ!いやあああああああああっ!」
ウィンは悲鳴を上げるが、誰も助けには来なかった。
突然、ウィンを絡め取っていた粘着ゲルがもごもごと動き始めた。
頬に纏わりついていた粘着ゲルがスライムのように動き始め、顔に集まってきた。
「ひやっ!」
ウィンはくすぐったさで身を捩った。
「んむっ!」
粘着ゲルがウィンの口を覆った。
「んんっ!んん~っ!」
ウィンの口元にはマスクのようにベッタリと粘着ゲルが覆っていた。
声を出せなくなり、悲鳴を上げて助けを呼ぶこともできなくなってしまった。
ウィンの身体に纏わりついていたゲルも動き始めた。
粘着ゲルが指先や太ももからウィンの身体に集まってきた。
粘着ゲルはウィンの身体を覆うようにまとわりついた。
ものの数分でウィンの身体は紫色のゲルでぴっちりと覆われてしまった。
霊使いの衣装は紫色のゲルで隠れてしまい、顔だけしか見えない状態になった。
口を塞いでいたゲルが再び動き始めた。
「んんんっ!んん~っ!」
粘着ゲルは目隠しするかのようにウィンの顔すべてを粘着ゲルで覆った。
ウィンの世界から光が消え、真っ暗な世界に突き落された。
肌はすべて粘着ゲルに覆われ、耳だけが覆われていなかった。
視界を塞がれ、神経が耳に集中した。
しかし、耳から入るのは、ねちゃねちゃとしたゲルの音と、喉の奥に押し込まれた自分のくぐもった声だけであった。
粘着ゲルはウィンの髪にも纏わりついていった。
緑色のさらさらとした髪にねばねばとしたゲルがまとわりついた。
女の命ともいえる髪がどんどんと呑み込まれていった。
緑の髪留めの端が見えなくなったかと思うと、ウィンの身体は完全に呑み込まれてしまった。
「~っ!」
紫色の人形と化したウィン。
身体を捩るが、今更抜け出すことなどできるはずがなかった。
身体の感触のほぼすべてを奪われた少女ウィン。
あるのは身体中を締め付けるゲルの感触だけであった。
穴の底には紫色の人間の形をした人形が横たわっていた。
その呑み込まれた主がウィンであることは誰にも分かないだろう。
穴の底に囚われたウィンはこれからどうなるのだろうか。
粘着ゲルが少女の身体を消化して養分を吸収するのか、それともこのままの姿で永遠と穴の底に囚われたままなのか。
それは穴に落ちた者にしか分からない。