IkeHaku
桜梅桃華@女装・TSF小説
桜梅桃華@女装・TSF小説

fanbox


女性限定ヨガに紛れ込んだ俺の末路:1

くびれと女の子座り

ヨガマットを広げた瞬間、異変に気づいた。

普段なら男性の参加者もちらほらいるはずなのに、今日は俺以外、全員が女性だった。


スタジオの空気がいつもと違う。視線が突き刺さる。俺を見て、何かをひそひそと囁いている。


「……あの人、男性だよね?」

「でも……ほら、今の時代、ね?」

「あぁ、今はいろんな人がいるしね……」

他の参加者が意味ありげに笑う。いやいや、今日はたまたま男性が俺一人なだけで、おかしくないだろ? ただいつものレッスンに来ただけ——のはずだった。



「事前にHPで告知しましたが、本日は『女性らしい体を作るヨガ』の特別レッスンです」

インストラクターの女性がスタジオ全体に話しかける。


俺の背筋がぞくりとする。俺だけが場違いだという自覚。


「本来は女性限定ですが……今日は男性が一名。大丈夫、今は多様性の時代です。女性らしい体を手に入れたい方も、いらっしゃいますからね」


「ち、違……!」と言いかけて飲み込む。ここで大きく叫び、変な誤解が生まれるのも困る。前払いのチケット、満席のスタジオ、閉められたドア。スマホはロッカーにしまったまま。そんな事を考えていると、音楽が少しだけ大きくなる。


「一緒にくびれのあるウエストと、吊り上がったヒップラインを作っていきましょうね」


さすがに弁解しようとしたが、それを遮るようにインストラクターはにこやかに言った。


「恥ずかしがらなくて大丈夫ですよ」


彼女の言葉に、周囲の女性たちが頷く。


「うんうん、最初は恥ずかしいよね」

「でも、女の子になりたくて一生懸命なんだよね」

「私たち、全力で応援するよ!」


どんどん勝手に話が進んでいく。

違う。俺はただ、いつものレッスンを受けに来ただけなのに。

けれど、もう何を言っても無駄な気がして、口をつぐんだ。



「では、レッスンを始めましょう。本日レッスンを担当させていただくJURIAと申します。よろしくお願いします」


落ち着いたヒーリング音楽のボリュームが大きくなり、インストラクターのJURIAが、ゆっくりとした動作でポーズを取り始める。


「まずは胸を開くポーズから。しなやかなバストラインを作る効果がありますよ」


指示に従って肩甲骨を寄せる。胸の前が薄く伸びて、吸い込む空気がいつもより甘い。女性の香りが鼻に触れて、呼吸がやわらぐ。


「いいですね、呼吸を“細く長く”。首を少しだけ伸ばして」


JURIAが背後に回り、鎖骨の上をそっとなぞる。触れたところだけ、体温が一段上がる。思わず小さく吐息が漏れる。


「次はツイスト。くびれは“ねじり”で作ります」


腰をひねると、Tシャツが斜めに引かれて、脇腹のあたりで布が“きゅっ”と寄る。鏡に映る自分の輪郭に、細い影が落ちるのがわかる。


「はい、そのライン、綺麗ですよ」


綺麗、なんて言葉。否定しようとして、否定の言葉が出てこない。


「では、女の子座りのポーズです。骨盤を整え、自然と足が閉じるようになります」


膝を折ると、マットが柔らかく受け止める。ふくらはぎが太ももに触れて、内側に熱がこもる。膝が勝手に寄って、指先が揃う。視線を少し斜め下に落とすと、呼吸が落ち着いて、喉の緊張がほどけた。


「すごい、綺麗にできてる」

「初めてでこれって、センスあるよ」


周囲の囁きが、褒め言葉の形で降ってくる。胸の奥が、くすぐったい。



その後も、みっちりと様々なポーズを取っていった。しなやかなボディラインを作るポーズ。生理痛がひどい人に効果的なポーズ。安産になるポーズ……。


「最後にヒップに効くワーク。上げて、止めて……そう。その高さ、覚えて」


JURIAの指先が、腰骨のすぐ上に触れて位置を教える。触れられた場所に印がついたみたいで、意識がそこから離れない。


「最後は『シャヴァーサナ』で気持ちをリラックスしていきましょう」


音楽が小さくなっていく。汗が冷房の風で薄く冷え、肌に“さら”とした感触が広がる。


仰向けの姿勢になり、静かに目を閉じる。

マットの弾力が肩甲骨を受け止め、背中に広がる温度がゆっくり均されていく。鼻先に残るのはラベンダーと、汗の薄い塩。音楽は遠く、呼吸だけが近い。


「吸って……吐いて……。こめかみや奥歯の力も抜いて……。口がぽかんと開いてしまっても大丈夫です。楽にしてください……」


JURIAの声が額の上に落ちて、皮膚の表面を撫でる。言葉に合わせて息を細く吐くと、鎖骨の内側が“すう”と軽い。重さが床に解けるたび、身体の輪郭が少し丸くなる。



「では、ゆっくり戻りましょう。指先から。目は最後に」


指先を握って開き、足首を回し、横向きになって起き上がる。世界が戻ってくる。拍手が“ぱらぱら”と広がり、スタジオの空気が一気に温度を取り戻す。


「本日の『女性らしい体を作るヨガ』のレッスンにご参加いただき、ありがとうございました!」


JURIAの挨拶と共に、レッスンが終わった。

すると俺の周りに他の生徒が集まってきた。


「このレッスン初めてなんだよね? すごく上手だったよ」

「最初は半信半疑だったけれど、心から“女の子”になりたいって気持ちが伝わってきたよ」

「次も一緒にこのレッスン受けようよ!」


褒め言葉が重なって、胸の内側に泡が立つ。言い訳は、泡よりも軽い。


「もしよろしければ、継続レッスンのご案内を。続けることで、より女の子らしい姿勢・呼吸・所作となり、心構えや考え方も女性に近付いていきますよ」

JURIAが継続レッスンの説明をする。


俺自身は別に女性になりたいわけではなかった。それでもちやほやされるこの環境が居心地がよく、その場でついつい継続レッスンに申し込んでしまった。


この時点で、数か月後の自分の姿の予想なんて、できるはずがなかった。


【2章へつづく…】

——————

女性限定ヨガに紛れ込んだ俺の末路:1 女性限定ヨガに紛れ込んだ俺の末路:1

More Creators