スタジオの扉が開いた瞬間、空気がわずかにざわめいた。
小柄な体に少し大きめのTシャツを着た青年――鈴村さんが、戸惑った顔で立っていた。
「……あれ? なんか、今日は……」
周囲を見回すと、フロアにいるのは女性ばかり。
彼の表情が固まる。
「事前にHPで告知しましたが、今日は女性限定のレッスンです。……が、男性が一名いらっしゃいますね」
すかさず私はスタジオ全体に語り掛けた。
「え、特別……?あの、女性限定って……」
小さな声で私に尋ねてくる。
「今は多様性の時代です。女性らしい体を手に入れたい方もいらっしゃいます。大丈夫ですよ」
言葉を添えると、すぐに周囲の女性たちが笑顔で迎えた。
「本当に可愛い」
「女の子に混じってても違和感ないよ」
「一緒に楽しもうね」
鈴村さんは真っ赤になりながら、かろうじて頷いた。
「……はい」
私は心の中で小さく微笑む。リリーさんも遠巻きでこの様子をニヤニヤしながら眺めていた。
――舞台は整った。
◆
レッスンが始まる。
呼吸を合わせ、音楽が流れる。
「ではまず、ウエストをひねって。女性らしいくびれを意識して」
私はわざと“女性限定”を意識させる言葉を選んだ。
鈴村さんの動きがぎこちなくなる。
「……っ」
「はい、次は胸を開いて。バストのたるみ防止です。しっかりと上に引き上げて」
彼の頬がますます赤くなる。
横で女性たちが柔らかく笑って、自然にポーズを続けていた。
「次は骨盤を立てて。これは生理痛にも効くポーズです」
「……っ……」
鈴村さんの視線が床に落ちる。
「最後は膣の奥を意識するように、お腹を内側に引き締めて」
周囲の女性たちは軽く頷き、当たり前のように動作をこなす。
けれど彼は一瞬固まり、慌ててポーズを真似た。
その耳まで真っ赤に染まっていた。
私は心の中で囁く。
――これが、“女性限定”の空気。鈴村さんはもう逃げられない。
◆
レッスンが終わると、鈴村さんは汗を拭きながら息を弾ませていた。
女性たちが声を揃える。
「綺麗にポーズ取れてたね」
「また一緒にやろうね」
「次はもっと女性らしいポーズもやりましょう」
その言葉に、鈴村さんの表情は誇らしげに揺れた。
「……はい、ぜひ」
私はタオルを片手に微笑んだ。
――第一段階は、順調に進んでいる。
片付けを終えたあと、私はさりげなく声をかけた。
「鈴村さん、少しお時間ありますか?」
「え? あ、はい」
「近くにヨガウェアの専門店があるんです。今日のウェア、少し動きづらそうでしたし……よろしければ見に行ってみませんか?」
一瞬のためらい。
けれど、女性たちに囲まれて舞い上がった気持ちは、彼の判断を軽くした。
「……少しだけ。見るだけなら」
「よかった。似合いそうなものを一緒に選びましょうね」
私は微笑んで背中を押した。
◆
店内に並ぶのは、カラフルで女性らしいウェアばかり。
スポーツブラ、レギンス、タンクトップ。
男性用はほんの少しのスペースしかない。
もちろん彼に進めるのは女性用のウェアだ。
「鈴村さんには、これなんか似合いそうです」
私はコーラルピンクのスポブラを手に取る。
「え、俺に……?」
「はい。体型に合いますし、動きやすいですよ」
戸惑う彼に微笑んで差し出すと、おずおずと試着室に消えていく。
やがて姿を現した彼。
細身の体にスポブラがぴたりと収まり、グレーのレギンスが脚のラインをはっきり映していた。
「……どうでしょうか」
股間が不自然に盛り上がっている。彼のおちんちんは女性用のレギンスによって、ピッタリと形が浮かび上がっている。
「すごく自然ですよ。動きやすさも抜群です」
彼は観念したように、苦笑いを浮かべていた。
「あ……じゃ、じゃあ、このセットで」
私は満足げに頷く。
――予定通り。
◆
その夜。
私はリリーさんと再び顔を合わせていた。
「どうだった?レッスンはまんざらでもない感じだったよね」
紅茶をかき混ぜながら、彼女は目を細める。
「第一段階は成功です。鈴村さんは、女性に混じっても悪くないと思い始めています。今日、ヨガウェアも購入しました。きっと“また来たい”と思わせることができました」
リリーさんの唇に深い笑みが浮かぶ。
「やっぱりね。環境を与えれば、自分から堕ちていく」
私は頷きながら続ける。
「次はプロテインですね。ただ……」
「そう」
リリーさんは言葉を引き取った。
「男性ホルモンが優位な状態では、エストロゲンは十分に作用しない。体内のテストステロンを一度、外に出さなければいけない」
私は小さく息を呑む。
「つまり……射精させたあとで?」
「ええ。その直後にプロテインを飲ませれば、女性ホルモンが浸透しやすい。タイミングが肝心なの」
リリーは紅茶を口に含み、ふっと笑った。
「準備は整ってきた。あとは、どう自然にそこまで持っていくか……」
私は背筋に冷たいものを覚えながら、深く頷いた。
「……次回が本当の始まりですね」
「ふふ……楽しみだね……」
◆
一週間後、思惑通り、鈴村さんは新しく購入したスポブラとレギンス姿でスタジオに現れた。
細い体に女性用ウェアがよく馴染み、周囲の女性たちから「似合ってる」「すごく自然」と囁かれている。
だが、皆の目はすぐに一点に留まった。
レギンス越しに浮かび上がる、不自然に大きな膨らみ。
予想通り、彼の股間ははっきりと形を主張していた。
レッスンが終わり、他の生徒が彼の股間を指摘し始める。
私は笑顔のまま、彼の肩に軽く手を置いた。
「鈴村さん……少しだけ残っていただけますか?」
「えっ……?」
私は視線を下げ、あえて股間へと導く。
「女性限定のクラスですから、”それ”はちょっと相応しくないですね」
鈴村さんの顔が真っ赤に染まる。
口を開きかけて、何も言えずに固まっている。
私は柔らかく微笑み、囁いた。
「大丈夫。生徒さんの事を考えるのがインストラクターの役目なので……リラックスして下さいね……」
――そして次の段階が、始まろうとしていた。
【第3話へつづく…】