「さ、行こうか」
リリーさんがバッグを肩にかけ、軽い声で言う。
「……ど、どこに……」
声が震える。
「この話の流れで病院以外ないでしょ」
さらりと笑顔で返された一言で、足がすくんだ。
「い、嫌だ……!無理です!本当に俺、そんなつもりじゃ――」
必死に抵抗したけれど、JURIAが俺の腕をしっかりと掴んで離さない。
笑顔のまま、声だけが冷たい。
「拒否したらもっと恥ずかしいですよ?通報されて“性犯罪者”でニュースに出たいんですか?」
全身の血が一気に冷えて、抵抗の力が抜けていく。
◆
スタジオから出ると、あたりは日が沈みかかっていた。夕焼けの紅色に染まる街を、俺を乗せたタクシーが走る。
後部座席の両隣に、JURIAとリリーさん。
俺は真ん中で、まるで護送される囚人のように縮こまっていた。
窓に映る自分の顔は青ざめ、唇がかすかに震えている。
「大丈夫。痛みは麻酔で分からないから」
リリーさんが、まるで優しく慰めるように囁く。
「朝には“完全に女の子の体”になるよ」
――優しい言葉のはずなのに、鎖のように重く絡みついてくる。
「……っ……」
喉の奥で言葉が詰まる。
◆
クリニックに着くと、すでに医師らしき人物が白衣で待っていた。
「ご案内します」
無表情の声が響く。
俺の心臓は悲鳴を上げるみたいに暴れている。
廊下を歩く靴音が、やけに大きく反響する。
無機質な光、冷たい白い壁。
奥の小さな一室に入る。
「書類にサインしてもらいますね。拒否するなら警察に……」
JURIAが差し出した紙とペン。
視界がにじみ、字がうまく読めない。
それでも、震える手でサインを書かされた。
これでも後戻りはできなくなってしまった……。
◆
「はい、じゃあベッドに横になってください」
医師が淡々と告げる。
「い、嫌だ……!俺、本当は嫌です……!やめてください……!」
必死に訴えるけれど、両側から腕を押さえ込まれた。
「大丈夫大丈夫、力抜いて。すぐに眠くなるから」
リリーさんが微笑みながら、俺の口元に透明の呼吸器を押し当てる。
「やめ――っ……!」
甘い薬品の匂いが鼻に流れ込む。
肺に冷たい煙のようなものが充満し、視界が揺れた。
「さぁ……これで完全に、女の子に……」
JURIAの声が遠のいていく。
(――嫌だ……俺は……男で……)
光がにじむ。
鼓動の音が、ゆっくり、遠くへと沈んでいく。
最後に見えたのは、手術灯の白い光だった。
――そして、すべてが闇に飲み込まれた。
◆
……熱い。
体の奥から、じわじわと焼けるような熱が広がっている。
意識が浮かび上がると、目の前に白い天井。
「おはようございます」
淡々とした医師の声。
隣では、JURIAとリリーさんが笑顔で覗き込んでいた。
「無事に終わりましたよ。もう、完全に女の子の体です」
「……っ……!」
反射的に下腹部へ手を伸ばす。
だが、そこには何もなかった。
包帯に覆われた平らな感触。
男である証は、跡形もなく消えていた。
「……うそ……」
震える声が漏れる。
その声が、ひときわ高く響いた。
耳に返ってきたのは、自分のものとは思えない、女性のような声。
慌てて胸に手を当てると、そこは明らかに膨らんでいた。
包帯越しでも分かるふくらみが、呼吸のたびに上下している。
確かな重みが胸板にのしかかり、もう男の体ではないと告げていた。
「大丈夫。ちゃんと膣も形成したから、これから女の子として生きられるよ」
リリーさんが、優しく、でも逃げ道を塞ぐように言った。
「よかったですね~。これからは“女友達”として仲良くして下さいね!」
JURIAが弾む声で笑う。
涙が視界をにじませる。
もう、戻れない。
もう、俺は、男じゃない。
声も、胸も、性器もすべて……女にされてしまった。
【7章へつづく…】
次回で最終回です
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